奥歯をかみしめる二人

 敗れた二人はしばらく無言で立っていた。ラケットバッグを抱えたままだ。大学の後輩のYさんとAさんは県選手権にエントリーした。サーブ&ボレーの美しいダブルスだった。

 「惜しかったじゃないですか。もう一息でしたよ」

 「いや、サーブ&ボレーはクラシックスタイルなんでしょうかね。後ろからドカンと打たれると厳しいですね」

 「また、頑張ります」と30代の二人は会場を後にした。二人は奥歯をかみしめていた。歯が砕けるのではないかと心配した。

 そういえば、私の歯は1週間に砕けた。左下の親知らずを抜歯した。ペンチのようなものでうまく抜けなかったのでドクターがドリルで砕いた。痛くて眠ることができなかった。泣きたかった。道路工事をみると治療を思い出す。私の痛みはそのうちに忘れるだろうが、30代の二人は痛みを忘れることなく練習に励み、美しいサーブ&ボレーをまた県選手権で見せてくれることだろう。